<せっかちプリンセスに届け!この想い>(byバンちゃん)
執事犬のコピー

僕は各地のゲーム会に参加することが大好きだし、何より参加する前日に持参するゲームをチョイスする時間もまた至福のひと時を感じている。「あれも遊びたい」「こっちはどうだろう?」などと思慮を巡らせているうちに、大きいサイズの ものを買ったはずのゲーム専用衣装ケースは瞬時に溢れかえってしまい、泣く泣く 「今回は御免こうむります!」と手刀を切りながらゲームを棚に戻すといった作業に翻弄される。

そんな中、僕が「これだけはどうしても外すことができない」と決めているボード ゲームが存在する。それが今回紹介する、するめデイズ製作の「せっかちプリンセス」だ。 このゲームの良いところを紹介すると、僕なら際限なくあげる自信があるが、まず ひとつめに「幅広い柔軟性」を取り上げたいと思う。

 

老若男女分け隔てなく楽しむことができ、また、経験者未経験者に大きな違いもなく楽しむことができる点に加え、パッケージに「3~7人」と表示がされてはいるれど、場に提示するカードの枚数を調整することにより、数名程度の人数の増減にも問題なく対応できるのだ。あくまで僕の経験則ではあるが、お姫さま役を除く執事12人でも問題なく遊ぶことができた。プレイ人数が常に変動するゲー ム会等の場面において、こういった柔軟性の高いゲームは非常に重宝するだろう。

もうひとつの重要な点が「インスト(ゲームの説明を行う行為)も楽しめる」ことだ。ゲーム会等において、インストを行う役回りは当然ゲームを持ち込んだ本人に回ってくるものとされる。僕自身あまり相手にうまく説明できる技量を持ち合わせているわけではないし、むしろ人見知りは激しい方だと自覚している。けれど、このゲームに限っては、インストをすることが楽しくてしょうがない。むしろ他の方がたとえこのゲームを持ち込んだとしても、僕の方からインスト役を買って出たい程なのだ。

執事Bのコピー

僕が行うこのゲームのインストでは、ゲーム冒頭に簡単なストーリーを添えるとこ ろから始まる。 「あるお城に高貴なお姫さまと、その屋敷に仕える執事たちがおりました。しかし このお姫さまはとてもせっかちなので、たった10秒しか待ってはくれません。皆 さんは執事となりまして、お姫さま役の方の指令が出たならば、10秒以内に場に 出ているカードを使いまして、姫さまのご機嫌に沿うものを持ってきてください。 お姫さまはそれらを選び、一番気に入った執事にご褒美としてカードを与えます。 一番多くのカードを受け取った優秀な執事が勝利となります!」といった具合だ。

パッケージを裏返すと「わらわが望むものを持ってまいれ。10秒もあれば充分じゃな?」という姫さまからのメッセージが飛び込んでくる。この強烈なメッセージが、 ゲームショップを何の気なしにぶらぶらしていた僕の心をガッチリと掴み、気がつけばカゴの中に紛れ込ませており、そのままお買い上げという形となったのである。 今でも「『10秒もあれば』って、10秒じゃ何もできないでしょ。せっかちというか、ワガママなお姫さまだな…」と思うことはあるが、今にして思えば、この「ワガママ」とも取れる強引な世界観こそこのゲームの肝であり、ひいては僕が真にボードゲームに求めていたものが凝縮されていたのである。この点に関しては後述する。

 

閑話休題、このゲームには僕が独自に編み出した、ゲームを面白くする為のちょっとしたコツがある。 「とにかく役になりきってください」と、 先のインストを行う際にこう添えておくのだ。もちろんゲームを説明しているこの僕が、いちばんの執事になりきる、という自負を持って。「そ、それじゃ、次のパーティー会場にふさわしい場所を押さえて…施設を教えて ください。10、9…」 恥ずかしげな素振りを見せるお姫さま役の方が指令カードを読み終えると、僕の方は即座に、目についた「し」のカードを手に取ってこう答える。

「姫さま!私は「シンデレラ城」をご用意いたします。もちろんアトラクション施 設などの張りぼてではございません。正真正銘、本物でございます。今ならなんと、舞踏会セットや隣国の王子様、さらにガラスの靴をお付けいたします!」 某通販番組の司会者の如く美辞麗句が次々と口をついてで出てくる僕。周囲もその言葉に即発される。「姫さま!私はメリーゴーランドを!」「いえいえ姫さま、私 はパルテノン神殿を!」我も我もとお姫さま役に熱烈アピール攻撃を仕掛ける一同。 こんな雰囲気が醸造できたならば掴みはしめたもの。心の中で小さくガッツポーズ だ。もちろん姫さまのご機嫌にそぐわない場合は「無礼者!」の烙印を押されることもしばしば。

執事Aのコピー

さてこのゲーム、「役になりきることがコツ」だと断言はしたが、実はハッキリこれといった攻略法が存在しないことも大きな特徴だ。もう一問例を挙げる。「財閥に吸収合併するのに良い企業を見繕ってまいるのじゃ(※企業、メーカー 名)」というお題目に対し、僕が自信満々に提示した「マイクロソフト」という回答が、相手の苦し紛れに出した「桃屋」という回答にあっさり負けてしまう場面も普通にあるのだ。全てはお姫さま役のご機嫌ひとつであり、いわば気まぐれで、 わがままで、せっかちというより非常に世話の焼ける、そんなお姫さまに向かい合うわけなので、全く先の展開が読めない。

そんな理不尽極まりないお姫様に翻弄され、苦しめられ、毎回「ぎゃー!」「そん な馬鹿なー!」といった阿鼻叫喚の声を上げつつも、それでもこのゲームが持つ魅 力とは何かについて、僕なりに考えてみることにした。ゲーム独自の中毒性? それとも僕自身に密かに内在するマゾヒズム? しばらく考えた結果、どうやら僕は「笑顔が好き」という結論に行き着いた。 このゲームをプレイすると、周囲に笑顔が生まれるのだ。

 

「いやいや、その回答は おかしいでしょ!」「その回答ならば、もっとこっちの方が…」「俺がお姫さまだったら、君にご褒美だったね」など華やいだ声が周囲を包み、そこには必ず笑顔の空間が育まれる。 それはひとえに、先に挙げたゲームそのものの理不尽性がスパイスとなり、プレイ ヤー全員が「無茶苦茶な世界観だけれど、このお姫さまなら仕方がないよね」といった具合に甘受できてしまうのだ。そしてそれらは、周囲に笑顔という形となって飛 び火するのである。

笑顔の下には自然と人が集う。それはゲームに限らず人間社会も同様だ。かねてより各種ゲーム会に於いては参加人口の問題が懸念事項とされてきた。現在はマスコミ各社がこぞってメディアに取り上げるようになり、最近になってようやくそれら 諸問題に対する一条の光が垣間見えたところだろうか。そのためにはまず「周囲に面白さを伝える」必要があり、寡黙にカードを睨むという、そんな真剣勝負だけでボードゲームの良さや素晴らしさが伝わるのかどうか、甚だ疑問を呈してきた。

姫

「ボードゲームは、実際にプレイしていない人にもその面白さが伝わる」という点 が最大の魅力であると思慮する。しかしその壁は高くそびえ、如何にこの難所を攻略するかについて、僕自身も様々な手段を講じてきた。そしてついに「見ているだけでも面白い」と「遊んでみるとさらに面白い」の高い壁を取り払ってくれた触媒 こそ「笑顔」の存在であることが判明し、そのことを教えてくれたボードゲームこそ、紛れもなくこの「せっかちプリンセス」というゲームだったのである。

この理不尽な世界観にはもう一つの利点が存在し、先の「マイクロソフトが桃屋に負けた」という例では「まあ、こんなお姫さまだから、しょうがないか!」といった笑顔が生まれることで、負けても遺恨の念が希薄に留まるのである。これが先の 笑顔を生み出す土壌と相互作用を生み出し、さらなる笑顔を生成する源となるのだ。 勝った(選ばれた)相手も、負けた(選ばれなかった)相手も、加えて、側からそれを見ていただけの人間ですら、つまり、周りにいたものすべてを笑顔に取り込むことができる。このゲームの魅力はその「笑顔の連鎖を生み出すことができる」という点にあるのだろう。笑顔が生まれるゲームって、やっぱりいいな。

 

さて、僕の遊ぶゲームでは、必ず「お姫さまは可愛くて美しいもの」と相場が決まっている。 このゲームに携わった方、遊んでくださった方々全てに、笑顔が生まれ、それらがまるで魔法のように魅了したのであるならば、それはきっとこのツンデレでせっか ちなお姫さまが僕らに向けて発する、わがままに付き合ってくれたせめてものご褒美なのだろうと勝手に妄想してみるのだった。ふふふ。かわいいヤツめ。(~FIN~)