※こちらの記事は「I was game」さんの企画、Board Game Design Advent Calendar 2016の記事として作成させていただきました!
こんにちは、するめデイズのチカールです。
「ゲームマーケット2016秋」もいよいよ10日を切りましたね!
いつも個人的にゲームを制作するにあたって常に意識していることの1つを形にしてみようと思い、ボードゲームデザインのアドベントカレンダー企画に初参加させていただきました。どうぞ宜しくお願いしますm(_ _)m
今回のテーマは「ルールの量と面白さの関係について」と題しまして、ゲームにおけるルール量とプレイ体験としての面白さにどのような相関関係があるのかということについて、自分なりの考えを伝えてみたいと思います。
当然、ゲーム制作というものには答えがありませんが、「こんな事を考えながらやってる人もいるんだな~」程度に参考にして頂けたら幸いです。
【①ルールの量と敷居の高さ】
まず最初に、ゲームというものには「ルール」が存在します。しかし、ルールの量が増えれば当然マニュアルを読むのは大変になり、説明をする人間の労力も上がり、遊び手となるプレイヤーの層も絞られていくことになります。
ここで触れる「ルールの量」とは、マニュアルの文字量という意味ではなく、カードごとのテキストや特殊効果など、プレイをする上で説明が必要になるもの全てを含みます。この関係をグラフで表すと――
このような形になります。ある程度までは初心者を含めた誰でも遊べるものになりますが、ルールがある一定量を超えると敷居は高くなっていき、その後ルールが加わるごとにプレイするための難易度もどんどん上がっていきます。
【②ルールの量と面白さ】
次に、ルールの量と面白さの関係について考えてみます。ゲームの面白さというものは「ルール」が生み出すものです。ルールを加えるごとに、ゲームというものは体験としての厚みを増し、プレイする上での欠陥や問題点もなくしていくことができるでしょう。
例えば、「囲碁におけるコミ(不利になる後手が5目半分のハンデを得る)」や、「麻雀にギャンブル性を加えるドラ(持っていると得点が倍増する)」の存在などです。この関係をグラフで表すと――
このような形になるでしょう。ルールがある一定値に届かない場合は、遊べるゲームとして成立しません。そしてルールが少なすぎると多くの欠陥が生まれてしまいますが、ルールを加えていくことでゲーム性は上昇していき、完成度が上がっていきます。
ここで注目すべきは、ある一定値以上を超えると面白さがほとんど上がらなくなるということです。ある段階でゲームはルールとしての完成を迎え、その後は奥深さなどが加わりながら緩やかに上昇していきますが、次第に増えにくくなっていきます。
【③ルールの量とプレイ体験】
この「敷居の高さ」と「面白さ」のグラフを組み合わせることで、プレイしたときに受け手が感じる「プレイ体験」がどのようなものになるかを検証することが出来ます。では、どのような形になるのか、実際にグラフを重ね合わせてみると――
このような形になります。青い色のカーブが「敷居の高さ」、緑の色のカーブが「面白さ」を表す曲線です。これにより、グラフ内には3つに区切られたエリアが出来上がりました。そのエリアを色分けしてみると――
このように、A・B・Cの3つの区画ができました。あらゆる種類のゲーム(未完成品を含む)はこの区画のいずれかの位置に存在するのですが、それぞれがどんな内容のゲームを表すのか検討してみましょう。
<Aエリア>
ゲームとして明らかに必要なルールの量が足りていないため、「未完成品」とされてしまう作品です。バランスが崩壊していたり、運で全てが決まってしまう、極端な有利不利が生まれる、処理が破綻する状況がある、物足りないなど、多数の問題を抱えています。
<Cエリア>
こちらは一般的に「詰め込みすぎ」あるいは「整理不足」とされる作品です。不必要なルールが多く存在するため、内容以上に複雑で理解しづらいものになってしまい、遊び手を選びます。理解できれば面白かったとしても人には勧めづらく、決して万人向けとは言えないものでしょう。
<Bエリア>
AとCの中間に位置する、この位置に存在する作品が一般的に「完成度が高い」と称される作品です。遊びやすさと面白さが釣り合った、バランスのいい作品です!
【④最適な場所はどこか?】
以上のように、ゲームを作る人間が目指すべき場所は「Bエリア」ということになります。しかし、このエリアにはある程度の広さが存在します。
例えば「カヴェルナ」や「オーディンの祝祭」と言った重量級の作品のように、この空間に対して詰め込めるだけ詰め込み切ろうとする大作もあれば、「コロレット」や「髑髏と薔薇」のように、極力シンプルにまとめた美しい作品もあるでしょう。
(「テラミスティカ」などは明らかにルール的にはまとまりがなくトゥーマッチで、Cエリアに属する作品なのですが、内容の魅力で押し切ってしまうという力技の作品ですね)
ここで注意するべきは、「選択したテーマやゲーム内容によって、最適な位置は変化する」ということです。重量級のゲームなのにやれることが少なくて味気ないのでは物足りないし、シンプルゲームに小骨のような例外処理が多いというのも、どちらもいただけないものです。
【④目指したいと思っている場所】
このように、「ルール量とプレイ体験には関係が存在する」ということを説明してきたのですが、自分の中では常に目標として、目指したいと考えている場所があります。先程のグラフをもう一度見ていただきたいのですが――
このように、「敷居の高さ」と「面白さ」が交わる、2つの交点が存在します。では、この場所が意味する内容は一体どういうものなのかを考えてみましょう。
<交点②>
恐らく多くの方が目指されることになると思われる、「面白さが最大となる1点」です。ここから先はルールを足しても面白さが上がらず、蛇足になってしまいます。そのテーマとゲーム性で追求できる、ポテンシャルの最大値がこの位置です。
<交点①>
ですが、ここであえて私が提唱したいのが「交点1を目指すルール作り」なのです。この位置がどういう位置なのかと言えば、「面白さと敷居の低さの割り合いが最大になる位置」だと言うことが出来ます。
グラフで見比べていただきたいのですが、交点②に比べて「ルールの量が半分」であるにも関わらず、ゲームが持つ面白さ自体は交点②と意外と大差がないということが見て取れるかと思います。
この交点1を目指すルール作りをされている筆頭が、僭越ながら名前を出させていただきますと昨日記事を担当された「オインクゲームズ」さんになるでしょう。
昨年度のゲームマーケット大賞を受賞された「海底探険」などの作品が好例で、この作品をもっと面白くすることはいくらでも可能だと思います。たとえば、回収する宝の中に他人の足を引っ張る妨害アイテムを加える、セットコレクション要素として揃えると高得点になる宝を加える、ダイスの目の中に特別な効果を持つ目を用意する・・・と言った具合です。
ですが、あえてそれをバッサリと切り捨てる。「どこまで潜って引き返すかでスリルを感じ、酸素量を共有することで他人との連帯関係が生まれる」というゲーム性を破綻なく生み出せる最低限のルールで留めることで、ユーザーの間口を可能な限り広くし、テーマが持つ魅力をダイレクトにわかりやすく伝えるという方法です。
それは言い換えれば、この作品を広めてくれるであろう、「ユーザーに配慮した、優しい作品作り」とも言えるのではないでしょうか。そして、その1点という場所にはシンプルの美学、数学的な美しさがあります。そんな作品作りを方向性の1つとして目指したいといつも思っているのです。
【⑤最後に】
長い文章となりましたが、最後までお目通しいただきありがとうございました。日々「このテーマにとって、最適な位置はどこだろう?」などと頭の中でグラフを描きながら、その達成を夢見て構想を巡らせながら、ウンウンと唸る日々を送っています。
今回も魅力的な作品が多数並び、今から会場に足を運ぶのが楽しみです。それでは、みなさんゲームマーケット会場でお会いしましょう!
※明日の記事は、美しいカードのアートワークが印象的な札の語り部さんです。今から楽しみです!